【仏青通信】投薬の半分は優しさで出来ている

郡家別院では若手僧侶の集まりである「仏教青年会」のコラムをまとめた『仏青通信』を配布しています。ホームページ転載にあたり、一部加筆、修正を行っています。

薬剤師がお薬を患者さんに渡すことを「投与・投薬する」といいます。

投与・投薬という言葉には「投」という字が用いられています。

これは患者さんに薬を投げ与えるという意味ではなく、実はこの「投」という言葉の起源は一説には仏教と深く関わりがあるのです。

釈迦入滅の様子を描いた絵画を涅槃図と呼びます。

月僊「仏涅槃図」名古屋美術館所蔵

涅槃図とはまだ人間だった頃のお釈迦様が亡くなられる場面を書いた図で、横たわるお釈迦様の周りを弟子たちや仏様、動物や虫に至る様々な存在が嘆き悲しんでいる様子が描かれています。

既に80歳という高齢であったお釈迦様ですが、その死因は食中毒。

信者から御布施として差し出された食事にあたってしまったそうです。

さて、この涅槃図には木に引っ掛けてある袋が登場します。

これはお釈迦様の危篤をしり、お釈迦様を産んですぐ亡くなって仏となっていた母、摩耶夫人が我が子を救うために天から投げた薬袋なのです。

この逸話が投薬の語源なのだそうです。まさに字の通り、薬を投げてますよね。

残念ながらこの薬は沙羅双樹の木の枝に引っかかってしまい、お釈迦様に届く事はありませんでした。

この事から投与、投薬という言葉が生まれ、用いられるようになったとのことです。

「投」という文字には病に伏した我が子を救おうとする母親の愛と優しさがこめられているのでしょう。

第8北組 円浄寺
千葉哲生